黄銅鉱 CHALCOPYRITE CuFeS2
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黄銅鉱(カルコパイライト)は銅の硫化物で、銅の主要な鉱石である。黄鉄鉱(パイライト)とともに産出することもある鉱物であるが、黄鉄鉱(パイライト)が各種産状(例ロウ石中や母岩内)でも結晶しやすい鉱物であるのに対し、いわゆる鉱脈的な産状しか結晶することが少なく、世界的にも日本が良標本の供給地であったと言われる。日本は黄銅鉱を含む鉱脈を採掘していた鉱山が過去に多くあり、鉱脈の晶洞が開くとごとに標本採集されていたのに対し、世界的には岩石そのものに含まれる銅鉱物を岩石ごと採掘する斑岩銅鉱床と呼ばれるものも多く、そういった面も標本供給に影響していたかも知れない。 古き日本の鉱山標本を愛する懐古調鉱物コレクターに最も人気のある部類の鉱物で、鉱山が閉山した今となっては、標本市場で流通することが少なく、コレクター入門者にとっては入手の難しい鉱物となってしまっている。 私と黄銅鉱との出会いは、益富地学研究会館の秋田県の標本引き出しであった。その引き出しには阿仁鉱山や宮田又鉱山の黄銅鉱(カルコパイライト)の結晶標本が入れられており、水晶や鉄閃亜鉛鉱とともに独特の三角型っぽい金色の結晶がきらめく様は、いつか入手してみたいという鉱物種の代表となった。その後各地の展示会を見ているが、古典標本といえる産地の黄銅鉱は学生に手が出せるものではなく、所有している小坂鉱山産は無理して購入したものである。小阪鉱山は黒鉱鉱床であり晶洞標本はないものと勝手に思い込んでいたが、黄鉱の下の熱水の通り道と言える部分には結晶を産したようである。古典標本と異なり、表面光沢が美しいこの標本は、産地の珍しさもあって、今でもお気に入り上位の標本である。 近県では三重県の紀州鉱山が黄銅鉱(カルコパイライト)の結晶を多く産した鉱山で有名である。昭和40年代の鉱山末期に鉱物の標本を売っていた時期があり、そのときに訪れたコレクターの方が紀州鉱山の黄銅鉱や蛍石の結晶を500円や1000円で買えたので、今から思えば、もっと買っておけば良かったと話されていた。鉱山閉山後に生まれた私としては、とても羨ましい話であり、現地に行けば持っている人も少しはいるのではないかというあいまいな憶測のもと訪れてみた。集落におられた方に持っている方はおられませんかと尋ねると、ずばり元坑夫の方で、20年前に来てくれとったらなんぼでもあげられたんやけどなぁと言われた。しかしながらその様子を見て近所の人が集まり、その人たちの一人が家にいくらかはあるわということで何個か譲ってもらうことができた。採集品ではないものの自分で手に入れることができたことがとても嬉しく、今でも展示ケースでその黄銅鉱が輝いている。 採集品としては新潟県白板鉱山がある。この鉱山は大型の閃亜鉛鉱結晶を産したことで有名な古典産地で、鉱床母岩としては、やや珍しい粘板岩中の方鉛鉱・閃亜鉛鉱・黄銅鉱・重晶石・石英鉱脈である。この鉱山の特色は、晶洞という大きな空洞がたまに開くといった感じではなく、鉱脈そのものが石英によって充填しきっていることが他の鉱山に比べて少なく、延々と続く中央の空洞部分に水晶の結晶とともに硫化鉱物の結晶が、ほどよくぱらぱらとついているものである。そのため鉱山最盛期には相当な数の閃亜鉛鉱・方鉛鉱・黄銅鉱(カルコパイライト)結晶が産出していたことが想像に難しくない。鉱山稼行時から相当の月日がたった今得られる黄銅鉱(カルコパイライト)結晶の表面の光沢は失われていることが多いが、自らの手で採集することができた黄銅鉱(カルコパイライト)標本は思い入れの深いものである。 日本の主な黄銅鉱(カルコパイライト)結晶産地 青森県西目屋村尾太鉱山 秋田県小坂町小坂鉱山 秋田県鹿角市尾去沢鉱山 秋田県阿仁村阿仁鉱山 秋田県大仙市荒川鉱山 秋田県大仙市宮田又鉱山 新潟県魚沼市白板鉱山 新潟県鹿瀬町草倉鉱山 栃木県足尾町足尾鉱山 石川県小松市尾小屋鉱山 三重県紀和町紀州鉱山 |
日本の鉱物標本 英名リスト